修士課程のメモ帳

理系職に就くための免状を取るライフログ

Jones酸化に関する実践的な知見。

有機化学における酸化反応の一つにアルコールをカルボニル(アルデヒドやケトン)やカルボン酸にする反応があります。高校生の化学だと酸化剤として二酸化マンガン(MnO2)や三酸化クロム(CrO3)を用いていたと思います。大学の実践的な研究においては、Dess-Martin酸化やSwern酸化、Pinnick酸化など、アルコールの価数や特徴的な環境下毎に有効な手法が多数報告されています。

今回紹介するJones酸化はCrO3を用いた酸化手法で、1級アルコールをカルボン酸に、2級アルコールをケトンに急速に変換する反応です。反応機構やCrの毒性による注意事項等は教科書やChem-Station、Wikipediaなんかに転がっているので、この記事では僕の経験を基に仕込みから精製までのコツを記してみようと思います。

ちなみに僕自身、まだまだJones試薬と苦戦中(主に分液操作)です。

 

 

仕込み

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先述した通り、僕的にJones酸化で厄介になるのが分液操作です。分液でクロムが取り込まれたエマルジョンができ、これを解消しないと収率が劇的に低下し、解消には膨大な飽和食塩水と水酸化ナトリウム、希塩酸が必要となるので、基本的に1度に仕込むCrO3の量は750 mg程度(7.5 mmol)にしています。Chem-Stationに載っている調整法によるJones試薬は約2.5 Mなのでおよそ2.0 mL程度ですね。

 

 

クエンチ

Chem-Stationでは2-propanol (Isopropanol, IPA) を使うと良いって書いてます。未反応のJones試薬をIPAと反応させて基質の溶媒であるアセトンにしてしまおうという目的だと思います。IPA入れて10分くらい回してると褐色だったJones試薬が緑色のCr3+に変化する様子が観察されます。ただぶっちゃけ分液で還元剤(主にチオ硫酸ナトリウム)入れるのでくさIPA入れずいきなり分液に移ってもいいかもしれません。その代わり分液漏斗内で水素が発生する点は注意です。

 

 

分液 f:id:chemneko:20170830170457j:image

反応液と飽和炭酸水素ナトリウム(sat NaHCO3)を加え分液漏斗を1回振った後。エマルジョン●ね←

 

 

1級アルコールからカルボン酸への反応の時に塩基は入れるな。分液の煩雑さで殺されるぞ。

 

 

反応液

│←2-propanol at 0℃

│(←brine+Na2SO3aq)

分液操作

 

たぶんこれが賢い。 

 

重曹水だとクロムを噛んだエマルジョンが形成され、塩基で水層に落としたカルボン酸を酸で有機層に持ち上げ直す際、クロムを噛んで持ち上がってくるのでねずみ色のエマルジョンが再び発生します。NaOHaqだと相当量加えることでねずみ色の水に難溶なCr2O3がテトラヒドロキシ錯体[Cr(OH)4]2-となり水に溶けるようになります。ただしアルコールもアルコキシドとなり水層に移動するので、一旦塩基で水層に落とす意味はほぼなくなります。あと硫酸との中和熱がなかなかヤバく、分液漏斗が結構温かくなります。Jones試薬7.5 mmolスケールで温かくなる程度で済んでますが、これ以上だと下手したらびっくりして分液漏斗落として割ったり火傷したりするかもしれません。

 

なので塩基を入れない代わりにチオ硫酸ナトリウムを入れときましょう。未反応のJones試薬を潰してCr3+にしておけばクロム系廃液に流すだけで処理が終わります。ただし先述しましたが水素ガスが発生するので内圧には注意です。

塩基を入れなくても残念ながら多かれ少なかれエマルジョンはできますが、パスツールで叩いてできる限りエマルジョンは潰してから分けることで硫マグなどの脱水剤で妥協できる程度には有機層と水層を丁寧に分けることができます。

 

 

カラムクロマトグラフィ

カルボン酸を相手にするので、展開溶媒に0.3~1%程度の酢酸を入れておきましょう。カルボン酸特有のスポットのテーリングを防ぐことができます。

あとは特段記すことはないと思います。

 

 

 

基質のアルコールとカルボン酸の極性が近すぎて反応の終点が分からない場合

割と殺意が湧くタイプの基質ですよね(#^ω^)ピキピキ

僕の普段扱ってる基質がそれで、シリカカラムで精製して1H NMRで純度見ても基質がしっかり残存していてどうしようもないことがあります。そういう場合はアルコールに保護基を導入して極性を変化させる手法が有効だそうです(先生談)。

具体的にはアセチル化により極性を変化させる方法です。シリル系じゃだめなのか試したことないですので誰か知見ください←

 

 

随時書き足していきます。